2004年2月 4日
あなたの好きな歌
私はVX2000を片手に、ひとり街を歩いていた。
今日の放送で使うインタビュー取材をしなくてはいけない。
スタッフは私の他にも5〜6人来ているのだが、みんな散り散りになって取材を敢行中だ。
私は目についた若い女性を呼び止めてさっそくマイクを向ける。
「あなたの好きな歌ベスト5を教えてください」
「え…」
簡単な質問だと思うのに、なぜか何もしゃべってくれない。考え込んで口をつぐんでしまう。
まいったなぁと思いながら、別の人を探しにまた歩き始める。
板塀のある細い路地裏で、ダウンジャケットで眼鏡の若い男に声をかけてみる。
「あなたの好きな歌はなんですか?」
ひょろっとしたその男は、ちょっと考えたあと閃いたような顔で、
「ハリソンフォードじゃなくて、ハリセンボード!」
と得意気に言う。
「……」
何勘違いしてんだか。言いまつがいにすらなってないし。と思いつつも、
「あ〜、それいいですね〜。ありがとうございました」
と、その場を去る。…ネタにはなるかも。流しながらツッコミいれればなんとかなるか、と思い直す。
次の取材場所へは、台車に乗って移動だ。他のクルー達はもうすでに乗っている。
1つの台車に何人も立ってるからぎゅうぎゅうだ。
その上取材対象の女の子を2人も乗せようとしている。私の乗るスペースは、もうない。
仕方ない歩きで行くかと、また一人で近場を廻ることにする。
ふと見ると、コンビニの駐車場の車止めに人待ち顔の女の子が座っている。
とりあえずこの子に聞いてみようと、彼女のそばにしゃがみこみ、機会をうかがう。
長い髪にグレーのフレアスカートに眼鏡、地味だなぁと思っていると、
「今どっちが勝ってるんですかねぇ?」
彼女のほうから話しかけてくる。
彼女の視線の先の地面には、9インチくらいのテレビが置いてあった。
写りが悪いテレビでほとんど砂荒らしなのだが、かすかに野球中継が見える。
「野球、好きなんですか?」
「ううん、ぜんぜん」
なんだ、好きじゃないんだ。
「え〜と、あなたの好きな歌は?って聞いて廻ってるんですけど、歌は好き?」
「あんまり聞かない。…でもラジオならたまに聞きます」
「じゃあ、いままで聞いた中で一番好きな歌、思い出せる?」
彼女もまた首をかしげて考えてしまった。
「ほら!あんたの好きなの○○○×××じゃない!」
いつのまにか後ろに立っている女ともだちが口を挟む。
ちょっと黙っててよ。いまこの子に聞いてんの。という表情で
私はその女を見てやるが、おせっかい女は構わずに続ける。
「ほら今ラジオから流れてる。左のゲインを上げれば聞こえるよ」
見ると、地味な彼女の膝の上には平べったくて大きなラジオがある。
左のゲインてなによ?なんかムカツクと思いながらも、
ともかく音入ってるかなと
VXのオーディオレベル表示を無理な体勢でインにした拍子に、
ファインダーのアイキャップで目頭を打ってしまった。
ビックリして夢が薄れてゆく。
結局、地味な彼女の好きな歌の題名はわからずじまい。
邪険な女ともだちにでもいいから、聞きかえしておけばよかった。と反省しながら
目を覚ました朝でした。
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